ガラスの靴じゃないけれど
「若葉ちゃん?どうしたの?」
祖母に心配を掛けたくないと思ったけれど、瞳からとめどなく溢れる涙を止めることは不可能だった。
「お婆様...響さんが私に黙ったまま、姿を消してしまったの」
「まあ。どうして?」
「...わからない。わからないの」
泣き続ける私の背中を優しく擦ってくれるのは、祖母のシワ立った手。
その温もりを感じた私は、祖母に向かって甘えるように弱気な思いを吐き出した。
「お店はもう取り壊しが始まっているから帰ってきても居場所はないし、響さんは携帯も持っていないの。もう一生会えないかもしれない」
祖母はきっと、何も言わずに私のことを慰めてくれるはず。
そう思い込んでいた私にとって、祖母の前向きな発言は意外だった。
「ねえ。若葉ちゃん。私が若かった頃は携帯なんかなかったのよ。それでも私は博さんと結ばれた。だから大丈夫よ。若葉ちゃんにとって響さんは運命の人なんでしょ。きっと再会できるわ。自信を持って」
祖母の励ましの言葉は、出口の見えない袋小路に迷い込んでいた私の心に一筋の光を照らしてくれた。
泣いても泣いても溢れ出てきた涙も今はピタリと止まり、お腹の奥から力がみなぎってくるのを実感する。