ガラスの靴じゃないけれど
「若葉ちゃん。今まで響さんと交わした会話を思い出してみて。どこかに行きたいとか言っていなかった?」
必死に記憶を辿った私が思い出したのは、ブルーのオープントゥウのパンプスを受け取りに来た間宮咲子さんと軽く言い合いになった時のこと。
「響さんは旭山動物園と美ら水族館に行ってみたいって...」
「北海道と沖縄ね」
孫である私の相談に親身になってくれる祖母を心強く思いながら、アレコレと考えを巡らせる。
北海道と沖縄だけでは物足りず、もしかしたら全国各地の温泉を巡っているのかもしれない。
きっとそうだ。今頃タオルを頭に乗せて『うぃ~』とか言いながら、いい湯加減の温泉に肩まで浸かっているんだ。
どうしようもない妄想に歯止めがかからなくなり、無性に腹が立ってきた時。あのベージュ色のパンプスを入れた黒い箱が目に留まる。
「お婆様。彼のお爺様とシエナで出会った日って、確か12月18日よね?」
「ええ。そうよ」
「お婆様。ありがとう!」
彼と再会できる唯一の方法を思い付いた私は階段を駆け上がると、一目散に自分の部屋に向かう。
そしてパソコンを起動させると、貪るようにイタリア行きについて調べ始めたのだった。