ガラスの靴じゃないけれど
東京から乗り継ぎ時間を含めて約十五時間のフライトを終えて到着したのは、イタリアのフィレンツェ。
その日はフィレンツェのホテルに泊まり、翌日の朝一番のバスに乗ってシエナを目指す。
師走の忙しい時期に無理を言って休暇が取れたのは、二日間だけ。
土日の休みと組み合わせた四日間で、イタリアへ行くという無謀な計画を只今実行中。
イタリアのシエナは彼のお爺様と私の祖母にとって、特別な場所。
そしてお爺様の想いを受け継いだ彼にとっても、シエナは特別な場所のはず。
だから彼のお爺様と私の祖母が出会った12月18日に、彼がシエナの広場を訪れるはずだという確信が私にはあった。
壮大な丘陵が広がるトスカーナ地方の景色をバスの車窓から眺めること、一時間。
ようやくシエナに到着した私は、最終目的地である広場を目指して足を進める。
十二月のシエナの街を吹き抜ける風は突き刺すように冷たく、指先はかじかみ、吐き出す息は白くなる。
けれど祖母の言っていた通り、中世の面影を残したシエナの街並はとても美しかった。
赤いレンガ造りの建物。街を一望できる高い塔。
景色のひとつひとつに心奪われていると、シエナの広場に到着をする。
広場の片隅に立ち並ぶのはイタリアのサンドイッチであるパニーニや、エスプレッソと少量のお酒を混ぜたカフェ・コレットを売るお店。
そんな中、私が買い求めたのは美しいシエナの街を写したポストカード。
祖母にお土産として渡したら喜んでくれるかな。と、考えながら広場の端まで移動をした。