ガラスの靴じゃないけれど


イルミネーションに飾られた街が眩しく光り輝く、クリスマスイヴ。

平日五日間の業務を終わらせた私がすれ違うのは、身体を寄せ合いながら微笑み合う恋人たち。

私がシエナを訪れてから、もう六日が過ぎてしまった。

それなのに、彼の居場所は依然としてわからないまま。

イヴの華やかな雰囲気を恨めしく思いながら、ため息を付く。

今頃、彼はどんなイヴを過ごしているのだろうか。

相変わらず彼のことばかり考えてしまう自分に苦笑しながら家の前まで辿り着くと、そこには見慣れない黒いSUV車が停まっていた。

ドキリと私の心臓が音を立てると同時に、運転席のドアがガチャリと開く。

ブラウンのレザーローファーを履いた足元が地面に着き、車の中から姿を現したのは私が会いたいと毎日願っていた人物だった。

「響さん!」

わずか数メートルの距離を全力疾走した私は、彼に向かって必死に手を伸ばす。

その私を受け止めてくれたのは、逞しい彼の胸板だった。

「若葉。寂しい思いをさせて悪かったな」

抱き合いながら彼の温もりを感じ、彼のくぐもる声を聞けば、私の瞳から大粒の涙が零れ落ちる。

子供のようにしゃくり上げる私の様子を見た彼は、しばらくの間黙ったまま頭を撫で続けてくれた。


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