ガラスの靴じゃないけれど
幼い頃に事故で両親を失った彼にとって家族とは、未知のものなのかもじれない。
悲しげに瞳を伏せながら自分を悪者扱いする彼を見ていたら、どうしようもなく胸が痛んだ。
「私は自分の意志で響さんについて来たんです。その私が幸せを感じているんだから、家族が響さんを恨むなんてことは絶対にありません」
突然、家族について力説を始めた私を運転席から見ていた彼は目を丸くしながら驚きの表情を浮かべていた。
すると、後ろからププッとクラクションが鳴り響く。
どうやら彼は、信号が青になっていたことにも気づかないくらい動揺しているみたい。
慌てて車を発進させた彼は癖のある黒髪を掻き上げると、ポツリと疑問を口にした。
「家族って...そういうものなのか?」
「そうですよ。私が幸せなら家族も幸せだし、家族が幸せなら私も幸せなんです」
「そうか」
「はい」
彼は納得したように頷くと、小さな声で謝りの言葉を口にした。
「黙って姿を消して悪かったな」
彼と会えなかった悪夢のような毎日を思い出した私は、大袈裟に頬を膨らませてみせる。
「そうですよ。理由を教えて下さい」
彼は鼻先を人差し指でポリポリと掻くと、一気に言葉を発した。