ガラスの靴じゃないけれど
「うわぁ!なんだか懐かしいです!」
お店に入るとすぐにあるのは、お客さんを迎えるカウンター。
そのカウンターの奥には作業台があり、様々な工具がズラリと並ぶ。
さらに奥には人の足形をした木型と、レトロ感いっぱいのミシンがある。
目に映るものがすべて懐かしく、そして新鮮に思えるから不思議だった。
落着きなく店内をあちらこちら見回る私の横を通り過ぎた彼が向かった先は、重量感があるアンティークな戸棚。
扉を開けると彼は迷いなく、ある物を手にした。
「全く...これを階段に落としていくなんて、シンデレラの真似か?」
「あっ!」
彼の手の中にあるのは、シエナの広場の階段に私が置いてきたチェリーピンク色のパンプス。
彼と再会できた喜びのせいで、肝心なことをすっかり忘れていた私は慌てながら言葉を発した。
「響さん!やっぱり12月18日にシエナに行ったんですね!」
「ああ。自分の目でシエナの広場を見ておきたかったからな。でもまさか若葉までシエナを訪れていたとはな」
彼はコツコツと足音を響かせながら私の元に向かってくると、大きなため息を付いた。