ガラスの靴じゃないけれど
「若葉。店だけじゃなくて、この家の中を案内してやる」
耳元で甘く囁かれた私がキスの余韻に浸りながら黙ったままコクリと頷けば、カウンターからふわりと身体が舞い上がる。
まず始めに彼が案内してくれるのは、キッチン?それともリビング?
胸の高鳴りと重なり合うのは、トントンと階段を昇る彼の足音。
お姫様抱っこされながら期待に胸を膨らませていると、彼はある部屋のドアを勢いよく開けた。
「ひ、響さん...ここって...」
思わず言葉が詰まってしまったのは、そこがキッチンでもリビングでもない場所だったから。
「見ての通り、ここは寝室だ。今の俺と若葉には一番相応しい場所だろ?」
彼は意地悪そうに口角をニヤリと上げると、私の身体をダブルベッドの上にゆっくりと下ろす。
そしてスタンドカラーのハーフコートを自ら脱ぐと、私の右足からチェリーピンク色のパンプスを脱がせた。
たったそれだけのことなのに、思わず身体が強直してしまった私に気付いた彼はすぐに動きを止める。
「若葉?俺とこうなるのは嫌か?」
「嫌じゃないです。でも...」
「でも?」
「私...その...慣れていないから...」
私の脳裏に浮かぶのは、痛みを伴った初体験の出来事。