ガラスの靴じゃないけれど


香ばしいコーヒーの香りに鼻を刺激されて目を開ければ、隣にいたはずの彼の姿がなかった。

昨日は確かに、彼の腕枕で眠りに落ちたはずなのに.......。

ベッドの上で上半身を起こすと、下腹部に少しの痛みを覚えた。

でもそれは不快な痛みではなく、嬉しくて恥ずかしい違和感。

彼とひとつになれた喜びを実感しながら辺りを見回すと、サイドテーブルの上に黒いルームウエアがが置かれていた。

これはきっと着替えがない私のために、彼が用意してくれた物に違いない。

ベッドから降りた私は、そのルームウエアに手を伸ばして上着を頭から被ると、下に履くイージーパンツを探す。

でも、どこを探してもパンツは見当たらなかった。

自分の姿を確認すればルームウエアの上着は大きくて、太ももの半分は隠れて見えない。

これなら下着は見えないはずと納得をした私は、手先が出るように袖を捲り上げながら、コーヒーの香りがする一階へと階段を下りた。

「おはようございます」

彼がいた場所は、キッチンダイニング。

L字型のシステムキッチンの前に立っていた彼は、私の声を聞くと振り返って笑顔を見せてくれた。

「おはよう。良く眠れたみたいだな」

「はい。お蔭様で」


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