ガラスの靴じゃないけれど
「若葉の得意料理は?」
「...実は私、あまり料理をしたことがなくて...」
「だよな。家に母親とばあさんがいて、仕事していたら料理する必要ないもんな」
ひとり暮らしをしているわけでもなく、仕事が終わり家に帰って食卓に座れば、自動的に温かいご飯が出てくる。
そんな生活を送っている私にとって、胸を張って自慢できる得意料理などなかった。
「でも!今日の夜ごはんは私が作りますから!響さんは何が食べたいですか?」
目玉焼きを豪快に口に入れると、彼はしばらく考え込む。
「今日はクリスマスだろ。ターキーのローストに、ほうれん草とベーコンのキッシュにサーモンのカルパッチョとか食いてえな。あ。それからボルシチみたいな身体が温まるスープも忘れずにな」
「え...?」
まくし立てるように早口で言われたカタカナ料理の羅列に私が目を白黒させると、彼は大声を上げて笑い出した。
「冗談だよ。そうだな。ハンバーグでも一緒に作るか?」
「はい」
「後で買出しに行こう。若葉の着替えも必要だしな」
朝食を食べ終え、コーヒーを味わっている彼の眼差しは、温かくて優しさに満ち溢れていた。