ガラスの靴じゃないけれど
でも、食事をしている姿を目の前でじっと見つめられるのは、少しだけ恥ずかしい。
だから私はモグモグと忙しく口を動かすと、クロワッサンをコーヒーで喉に流し込んだ。
「ごちそうさまでした。とても美味しかったです」
「そうか。それは良かった」
「後片付けは私に任せて下さいね」
彼の熱い視線から逃れるように慌てて立ち上がると、空になったお皿に腕を伸ばす。
でも私の指先がお皿に届く前に彼の大きな手によって、その動きを阻止されてしまった。
「片付けなんか後でいい。それより朝の挨拶がまだだったな」
「え?おはようって言いましたよね?」
私の腕を掴んでいる彼の手に力がこもると、あっという間に身体を引き寄せられる。
「朝の挨拶と言えば、これだろ」
彼が言う朝の挨拶とは、甘いくちづけのこと。
でもそのくちづけは、外国の映画などで見るような軽いものではなかった。
深くて長いくちづけを交わしていると、腰に回っていた彼の手が私の太ももに触れる。
「やっぱり、若葉の着替えは買わなくてもいいかもな」
彼がポツリと呟いた言葉の意味が分からない私は、ひとり首を傾げる。
すると彼は白い歯を見せながら、意地悪く笑った。