ガラスの靴じゃないけれど


まるで時が止まったような店内の様子を改めて見回した私の胸が、チクリと痛む。

けれど、こればかりはどうすることもできない。

「響さん...ごめんなさい」

私が『ごめんなさい』と口にしたのは、彼の過去を詮索してしまったことへの謝罪ではない。

近い将来、彼から大切なこの場所を奪ってしまうことへの、謝罪なのだ。

けれど、そんなことなど知る由もない彼は、まだ私を気遣ってくれる。

「だから、ジイさんが死んだのはずっと昔のことだ。オマエが謝る必要などない」

「......」

何も言えない私に差し出されたのは、彼の節くれだった手。

どうやら、カウンターの上から降りるのを手伝ってくれるという意味らしい。

見た目とは裏腹な紳士的な態度を見せる彼の手を借りて、カウンターから降りた私はパンプスに足を忍ばせる。

「これで特別授業は終わりだ。気を付けて帰れよ」

シャッターを閉めた店が多いこの光が丘駅北口商店街を訪れた時は、まだ太陽が沈む前だった。


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