ガラスの靴じゃないけれど
けれど、お店の丸いドアノブを回して木目調の扉を開ければ、すでに太陽も沈み、辺りに暗がりが広がっていた。
「それじゃあ、失礼します」
「ああ」
お店の扉をゆっくりと閉めれば、私に向かって軽く手を挙げた彼の姿が視界から消え去る。
パンプスが壊れたり、お姫様抱っこをしてもらったり、特別授業を受けたり、慌ただしい出来事があったことが嘘のように、光が丘駅北口商店街は静まり返っていた。
街灯に照らし出された彼のお店を外からじっくりと眺めてみれば、モスグリーン色の外装に、縦長の窓。ウッディな木目調の扉が目に映る。
そして扉の横に、まるで表札のように小さく掲げられていた看板を食い入るように見つめた。
このお店の名前は<靴工房・シエナ>。
彼お手製のパンプスは、どこまで歩いても疲れなど感じなさそう。
私は靴工房・シエナに背を向けると、オシャレな店名には似合わない光が丘駅北口商店街の通りをランウェイに見立ててみる。
そしてパリコレモデルのように颯爽とウォーキングをしながら、家に帰るために駅に向かった。