ガラスの靴じゃないけれど
「若葉ちゃん!こっち!」
ランチタイムの社員食堂で私に向かって、車のワイパーのように左右に手を振ってくれているのは、佐和子先輩と、後輩の有紀ちゃん。
ふたりは二か月前まで総務部で一緒に働いていた同僚なのだ。
実は開発事業部にも、女子社員が数名いる。
でもバリキャリな彼女たちの仕事ぶりを目の当たりにした私は気後れしてしまい、未だに仕事以外の会話を交わしたことがない。
だから、こうしてランチタイムで気心知れたふたりと、おしゃべりするのを楽しみにしている。
「それにしても若葉先輩ってラッキーですよね」
「本当よ!あの望月さんと一緒に働けるんだから!なんで私が選ばれなかったのかしら」
今日のAランチ定食のふわふわオムライスをスプーンですくい上げながら、私より二つ年上の佐和子先輩は首を傾げた。
ふたりには申し訳ないけれど、私と望月さんが付き合っていることは内緒。