ガラスの靴じゃないけれど
ワイシャツを捲った腕を身体の前で組みながら、望月さんはクスクスと笑い声を上げる。
ハッとしてミーティングルームの時計を見上げれば、確かに時刻は12時を数分過ぎていた。
「あっ!すみません!望月さん、お腹空きましたよね?どうぞお昼に行ってください」
望月さんに向かって腰を90度に折り曲げながら、床と水平に腕を伸ばす。
もちろん、揃えた指を向けた先はミーティングルームのドアだ。
貴重な昼休みの時間をこんなことに割いてしまったことを申し訳なく思っていると、望月さんの大きな笑い声が頭上から降り落ちてくる。
弾けるように上半身を起こすと、握った手を口に当てながら笑う望月さんの姿があった。
普段は厳しい表情を浮かべながら仕事をしている望月さんが、声を上げて笑うなんて......。
ポカンと口を開けながら、望月さんのレアな笑顔を見つめた。
「ん?何?」
私の視線に気付いた望月さんは、口に当てていた手を下ろすと首を傾げた。