ガラスの靴じゃないけれど
「いえ。望月さんも笑うんだなぁと思って」
「は?」
「だって望月さんって、いつもここにシワを寄せて難しい顔しているから」
望月さんに向かって、人差し指で自分の眉間を差してみせる。
「俺ってそんなに不機嫌そうかな?」
「...まあ。そうですね」
今さら嘘を言っても仕方ない。
だから真実を包み隠さずに伝えると、望月さんはクスッと小さく笑った。
「一条さんは俺と違って、品良く笑うよね」
「え?そんなこと初めて言われました」
「そう?」
「はい」
望月さんは縁なし眼鏡のブリッジを上げると、足を交差させて会議室のデスクに寄りかかる。
その姿はファッション雑誌の一ページのように格好良いから、私の鼓動は簡単に高鳴ってしまうのだ。
でも望月さんは、さらに私の鼓動を高鳴らせる言葉を口にした。
「一条さんがヘルプに来てくれてから、仕事がはかどるようになった。感謝している」
これはお世辞ではないと、眼鏡の奥の望月さんの黒い瞳が物語っている。