ガラスの靴じゃないけれど
だから私は、柄にもなく強がってみせてしまうのだ。
「試してみますか?」
「いいの?」
「...望月さんなら...いいです」
自分から誘うようなことを言ってしまったことを、今さら後悔した。
だって私は、キスをした経験が一度もないのだから。
どうしたらいいのかわからない私は、取りあえず望月さんに向かって顔を上げるとギュッと目を閉じる。
そんな力が入りまくった私の頭に感じたのは、望月さんの大きな手の温もり。
閉じていた目を薄っすらと開けると、今まで一度も見たことない柔らかい微笑みを浮かべた望月さんが私の頭をポンポンと撫でていた。
「一条さんの反応が可愛いからつい、意地悪をしちゃったよ。ごめんね」
優しさが滲み出たその笑顔を目にした私は、力が抜けてしまい身体がよろける。
「おっと。大丈夫?」
ふらついた私の身体を支えてくれたのは、ワイシャツの袖を捲った逞しい望月さんの腕。
でも逞しいのは腕だけじゃなくて、その胸板も厚くて温かいものだった。