ガラスの靴じゃないけれど
少しだけ顔を上げて、ゆっくりと視線を向ければ、望月さんの端麗な顔がすぐ目の前に現れる。
近すぎる望月さんとの距離は、私の心拍数をさらに上げた。
「参った。そんな風に上目づかいで可愛く見つめられたら...我慢できないよ」
可愛いなんて言われ慣れていない私は、すでにキャパオーバー。
これじゃあ午後の仕事が手に付かないと思っていた矢先、顎に手を添えられる。
そして徐々に望月さんの顔が近づいてきて...瞳を閉じる前に唇を奪われた。
生まれて初めてのキスに戸惑いながら、望月さんの縁なし眼鏡を見つめていると、あっという間に唇が離れていく。
唇を軽く重ねただけのキスが終わると、望月さんは私を抱きしめていた腕をゆっくりと解いた。
「それじゃあ、食事に行こうか。って言っても、一条さんと一緒に食べる訳にはいかないけど」
切り替えが早い望月さんとは正反対なのは、この私。
望月さんと重なった唇が、いつまでもほんのりと熱を帯びている気がしてならなかった。