ガラスの靴じゃないけれど


「悪いけど、このプロジェクトが終わるまで、俺たちのことは内緒にしてもらえるかな?一条さんに何か頼むたびに変な目で見られるのは御免だから」

仕事の指示のような望月さんの冷静な言葉を聞いた私は、ハッと我に返る。

「は、はい。もちろん」

「うん。ありがとう」

ファーストキスの余韻が冷めないのは、私だけだと思っていた。

でも...。

「若葉。今度キスする時は目を閉じること。いいね?」

今度っていつですか?と思わず聞きてしまいそうになった私は、慌てて口を閉じる。

だって、そんなことを聞いたら、もう一度キスをしたがっているみたいで恥ずかしい。

「は、はい」

慌てながら返事をすると、望月さんは眼鏡の奥の瞳を細めながらクスクスと笑い出した。

「いい返事だ。二度目のキスを楽しみにしているよ」

意外と笑い上戸なところも。恥ずかしいことをサラリと言うところも。新たな発見。

私の知らない望月さんがこれからひとつずつ増えていくことを楽しみにしながら、ミーティングルームを後にすると食堂に向かう。

胸がいっぱいで、ランチなんか喉を通らない。そう思いながら。----


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