ガラスの靴じゃないけれど
望月さんとの初めてのキスは、唇が触れ合うだけの軽いものだった。
けれど二度目のキスは唇の味を確かめ合うように、重なっては離れて、また重なり合う。
少しだけ濃厚なキスは私の唇だけでなく、身も心も熱くとろけさせた。
「目を閉じた若葉の顔が可愛いから、つい夢中になった。朝からごめん」
仕事中の望月さんは縁なし眼鏡を光らせながら、精密機械のように隙を見せずに手際よく仕事をこなしていく。
でも今、目の前にいる望月さんは、私の頬を優しく撫でながら眼鏡の奥の瞳を細めている。
週の初めの月曜日の朝から、望月さんのこんな優しい表情を見てしまったら......。
「望月さん。私、仕事なんかしないで、ずっとこのままでいたいです」
つい、本音が口から出てしまう。
我ながら、子供染みたこと言ってしまったと思っていると、望月さんが小さく笑った。
「俺もだよ。若葉」
五つ年上の望月さんが同じ気持ちだったことが、とても嬉しい。