ガラスの靴じゃないけれど


望月さんとの初めてのキスは、唇が触れ合うだけの軽いものだった。

けれど二度目のキスは唇の味を確かめ合うように、重なっては離れて、また重なり合う。

少しだけ濃厚なキスは私の唇だけでなく、身も心も熱くとろけさせた。

「目を閉じた若葉の顔が可愛いから、つい夢中になった。朝からごめん」

仕事中の望月さんは縁なし眼鏡を光らせながら、精密機械のように隙を見せずに手際よく仕事をこなしていく。

でも今、目の前にいる望月さんは、私の頬を優しく撫でながら眼鏡の奥の瞳を細めている。

週の初めの月曜日の朝から、望月さんのこんな優しい表情を見てしまったら......。

「望月さん。私、仕事なんかしないで、ずっとこのままでいたいです」

つい、本音が口から出てしまう。

我ながら、子供染みたこと言ってしまったと思っていると、望月さんが小さく笑った。

「俺もだよ。若葉」

五つ年上の望月さんが同じ気持ちだったことが、とても嬉しい。


< 5 / 260 >

この作品をシェア

pagetop