ガラスの靴じゃないけれど
ラッシュ時の満員電車ほどではないけれど、エレベーターはそれなりに混雑をしている。
人波を縫って少しずつ奥に進めば、いつの間にか私の隣には望月さんの姿があった。
チラリと視線を上げて望月さんの横顔を見つめてみると、縁なし眼鏡のブリッジを上げながら、私だけにわかるように口元から微かに笑みが零れる。
たったそれだけのことなのに、私の心臓はドキリと跳ね上がるのだった。
ついさっきまでは、望月さんを独占している松本チーフを羨ましく思ったけれど......。
誰にも内緒のオフィスラブもいい感じかも。と、単純な私は思ってしまう。
でも、そんな余裕すらなくなる出来事が私を襲った。
パーソナルスペースなど存在しないエレベーターの中で、私の指先に甘い衝撃が走る。
その正体がわかった時には、すでに私の指先に望月さんの長くて細い指が絡みついていた。
私の指と指の間を押し広げる望月さんの指先は、熱くて力強い。