ガラスの靴じゃないけれど
ロッカールームでメイクを直した私が、開発事業部に向かうとすでにデスクで仕事の準備をしている望月さんと目が合った。
いつもなら目が合うと、私にだけわかるように笑みを浮かべてくれるのに......。
私に背中を向けると、肩を小刻みに震わせ始めた。
声こそ聞こえないけれど、私には望月さんが笑っているとすぐにわかった。
だって望月さんが笑い上戸だということを知っているし、笑う理由に心当たりがあったから......。
隙を見せずに手際よく仕事をこなしていく望月さんが、肩を震わせながら笑っている珍しい姿を目にした開発事業部の人たちは、皆一様に驚きの表情を浮かべている。
もちろん隣のデスクの松本チーフも、そのうちのひとり。
「望月?どうした?俺の顔に何か付いているか?」
「いえ。ちょっと思い出し笑いを...」
「はぁ?そんなに面白いことなら俺に教えろよ」
「あー。それは無理です」