ガラスの靴じゃないけれど


「このノートに名前と住所を書いてもらったら資料を渡す。どれくらい時間が掛かるのか聞かれたら、一時間の予定ですって答えて」

「はい」

いよいよ第一回住民説明会が始まると思うと、緊張感が増してくる。

ゴクリと喉を鳴らしながら望月さんの指示に頷いていると、クスクスという笑い声が横から聞こえた。

「俺がいるから、そんなに緊張しなくて大丈夫だよ」

「はい」

緊張している私の心を和らげてくれるのは、頼りがいのある望月さんの言葉。

それは、まるで降り積もった雪を解かす春の温かい日差しのように、私の心に沁み入った。

それなのに望月さんは受付テーブルの上に資料を用意しながら、私が気にしていることを指摘する。

「でも今日の一条さん。就活中の女子大生みたいだね」

思わず作業の手が止まってしまった私は、思い切り頬を膨らませた。

「もう!望月さんったら、こんな時に冗談は言わないでください」

「冗談じゃないよ。きっと住民説明会に来る人たちも、内定者の研修かと思うんじゃないかな?」


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