ガラスの靴じゃないけれど


住民説明会が始まる30分前になると、ポツリポツリと受付に人が姿を現す。

初めのうちは緊張で笑顔が引きつっていた私も、しばらくすると自然と笑えるようになっていた。

そんな中、説明会開始時刻の10分前に問題が勃発してしまう。

名前と住所を記入してもらい、手順通りに資料を手渡す。

ここまでは、何も変わったことはなかった。

「よお。姉ちゃん。好きな席に座っていいのか?」

私に質問をしてきたのは、今、受付を済ませたばかりの白髪交じりの初老の男性。

畳敷きのスペースに上がろうとしている初老の男性の足元には、住民説明会に出席する人が脱いだ靴が散らかっていた。

丁度、受付に訪れる人も見当たらない。

私は散らかった靴を揃えるために、サンダルを脱ごうとしている初老の男性の横に並んだ。

「はい。特に指定はないので、どうぞ好きな場所にお座りください」

にこやかに返事をした瞬間。

私は、今まで一度も経験したことのない出来事に見舞われた。

「やっぱ、いいね。若い娘(コ)のケツは。カアチャンのとは張りが違う」


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