ガラスの靴じゃないけれど


「そうですか。とにかく後少しで説明会が始まりますので。受け付けはお済ですか?」

「いや。まだ」

冷静に物事を進める望月さんの前で、彼はふてぶてしく棒付きキャンディーを口に入れる。

「それでは一条さん。早く受付を」

「はい」

ふたりの間を飛び交うのは、目には見えない火花。

その彼の眼差しが、光が丘駅北口商店街の再開発に反対していると物語っていた。

もうすでに、再開発プロジェクトチームと再開発反対住民との戦いは始まっている。

そう痛感した私は、ギクシャクしながら望月さんの指示に従い、彼を受付に誘導した。

すると、そこにはもう一人、面識のある人物がいた。

「キミはこの前のお嬢さんじゃないか」

丸縁メガネの奥の瞳を大きくしながら驚いているのは、山本時計店のゲンさん。

「こんばんは。先週は失礼しました。こちらにお名前とご住所の記入をお願いします」

ふたりに向かってノートを差し出すと、彼が角ばった文字でスラスラと名前と住所を書き出した。


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