ガラスの靴じゃないけれど


「しかし大企業のやることは汚ねえよな。先週、コソコソとこの商店街に来たのは、こっちの弱みを探るつもりだったんじぇねえの?」

「そんなことありません!先週のことは私が勝手に」

私の言葉を遮った彼は、面倒くさそうに頭を掻く。

「ふーん。まあ、そんなのどうでもいいけど。ほら。書いたから早く資料をくれよ」

「あ、はい」

突き出された彼の大きな手のひらに向かって、資料を差し出す。

「一部じゃねえよ。ゲンさんの分も」

私に向かってさらに手を突き出す彼は、不機嫌そのもの。

でも、それも仕方ない。

だって私は、彼の大切な場所である、靴工房・シエナを奪おうとしている悪者なのだから......。

資料を二部、手にした彼は、受付を済ませたゲンさんと共に畳敷きのスペースに上がる。

時刻は18時。

彼とゲンさんが席に着くと、予定通り、第一回住民説明会が始まった。

果たして荒れるのか。荒れないのか。

私は誰も訪れない受付で、奥からから聞こえて来る説明会の内容を聞くために耳を澄ました。


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