ガラスの靴じゃないけれど
待ち合わせをした私の地元である桜台駅のロータリーに着くと、クラクションが軽快に鳴り響く。
「若葉!」
私の名前を呼びながら、シルバーメタリックの車の運転席から颯爽と姿を現したのは、望月さん。
縁なし眼鏡が望月さんのトレードマーク。
けれど、仕事がオフの今日は黒のスクエアフレームの眼鏡を掛けている。
「望月さん眼鏡...」
「ああ。これは休日用。仕事の時よりも度が弱いんだ」
そう言いながら望月さんは、スクエアフレームの眼鏡のブリッジを中指で押し上げた。
いつもと違うのは、眼鏡だけではない。
Vネックのシャツとブラックのストレートパンツというシンプルなスタイルの望月さんは、文句なしに格好いい。
「あの、望月さん」
「ん?」
「いつもの眼鏡も似合っていますけど、今日の眼鏡も...素敵です」
自分の素直な気持ちを口にすると、隣に並んだ望月さんは身体を屈めて私の顔を覗き込む。
「眼鏡だけ?」
「え?いえ、もちろん今日の服装も素敵だし、服装だけじゃなくて...望月さんはその...いつも素敵です」
これじゃあ、遠回しに『望月さんが好きです』と、告白をしているも同然だ。