ガラスの靴じゃないけれど
徐々に頬が熱くなっていくのを自覚していると、身体を起した望月さんがクスクスと笑い出した。
「ありがとう。そんなに褒めてくれて嬉しいよ」
望月さんの笑顔は、いつもと同じはず。
それなのに私の心臓がドキリと大きく跳ね上がるのは、見慣れないスクエアフレームの眼鏡のせいかもしれない。
総務部で一緒に働いていた佐和子先輩が、昼休みにふと漏らした『あぁ...メガネ男子。萌えるよねぇ』という言葉が、今は妙に納得できた。
ぽうと呆けながら、いつもとは少し違う望月さんを見つめる。
「ん?どうした?」
「い、いえ。何でもありません」
慌てて視線を逸らした私の腰に当たるのは、望月さんの大きな手のひら。
「どうぞ。乗って」
望月さんはシルバーメタリックの車の助手席のドアを開けると、スムーズに私をエスコートしてくれる。
その誘導に従った私は、助手席に腰を下ろすとシートベルトを締めた。
助手席のドアを閉めて運転席に乗り込んだ望月さんも、シートベルトを締める。
「若葉。急に誘って悪かったね」
「いえ。デートに誘っていただいて嬉しかったです」