ガラスの靴じゃないけれど


突然のデートのお誘いは嬉しかったけれど、困ってしまったのは着て行く服。

住民説明会の時のように、就活中の女子大生みたいだなんて、絶対に言われたくない。

クローゼットからアレコレ手に取り、私がチョイスしたのは白いレース素材のフレアワンピース。

靴はバラのコサージュが飾られた、オフホワイトのバレエシューズを合わせてみた。

「あ、ありがとうございま...す」

お礼の言葉が尻すぼみになってしまったのは、望月さんとの近すぎる距離が恥ずかしかったから。

でも普段、モノトーンのスーツばかり着ている私にとって、ストレートな望月さんの褒め言葉はとても嬉しいものだった。

初めのうちはドキドキ高鳴り続けた私の心臓も、運転席と助手席の距離に慣れてくると、次第に落ち着きを取り戻す。

梅雨入り前の澄み渡る青空に浮かぶのは、白い三日月。

バナナのような白い三日月を追い駆けるように走るふたりきりの車中は、居心地が良かった。

開発事業部にヘルプに来てから二か月とちょっと。

まだまだ私は、望月さんのことを知らない。

望月さんの好きな食べ物は何?

望月さんの趣味は?

望月さんの初恋はいつ?


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