ガラスの靴じゃないけれど
聞きたいことが次々に浮かんだ私は、何から質問しようか頭を悩ませる。
その時。運転席から聞こえたのは、望月さんの低い声だった。
「若葉。靴工房・シエナの五十嵐響と何があった?」
望月さんが目撃したのは、住民説明会で私が彼に向かって頭を下げている姿だろう。
彼は何もないと言ったけれど、何もないのに私が頭を下げるはずがない。
「私...住民説明会の時、お尻を触られたんです」
「は?五十嵐響に?」
望月さんは驚きの声を上げるとハンドルを握ったまま、一瞬だけ私を見た。
「いえ。違います。シゲさんっていう人にです。その時、私を助けてくれたのが、五十嵐響さんなんです」
前方を見つめながら運転をしている望月さんをチラリと横目で見つめれば、悔しそうに下唇を噛みしめていた。
「俺がいるから大丈夫とか言っておきながら、ちっとも気付いてやれなくて...若葉。ごめん」
「望月さんは何も悪くありません!だから謝らないでください」
「でも...若葉がお尻を触られたことも、若葉を助けたのが俺じゃなくてアイツだったことも...やっぱり悔しい」