ガラスの靴じゃないけれど


丁度、赤信号で車のブレーキを掛けた望月さんは、助手席の私に向かって優しく微笑み掛けてくれた。

「若葉。仕事の話はこれで終わりにしようか。折角のデートが台無しになっちゃうからね」

「はい」

大きな手で私の頭をポンポンと撫でた望月さんは、信号が青になると車を発進させる。

今日はふたりにとって、初めてのデート。

望月さんの言う通り、仕事の話ばかりしていたらもったいない。

「若葉ってさ、辛いもの好き?」

「辛いもの?」

「うん。俺の予想だと、お寿司はさび抜きを注文していそうなんだけど」

「え?どうしてわかるんですか?!」

今まで一度も、望月さんと食事に行ったことなどない。

それなのに、占い師のように言い当てる望月さんを驚いて見つめた。

「いや...若葉が時々、小学生に見えるよ」

「小学生ってひどい!せめて中学生って言ってくれませんか?!」

「え?」

ハンドルを握ったまま、望月さんは声を上げて笑い出す。

何がそんなにツボにハマッタのか、よくわからないけれど、笑い上戸の望月さんも私は大好き。


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