ガラスの靴じゃないけれど


望月さんが運転する車は、順調に国道を進んでいる。

ドライブデートは始まったばかり。

いったい、どんな一日になるのだろうとかと期待に胸を膨らませながら、まだ笑い続ける望月さんの横顔を熱く見つめた。




半分開けたウインドウから吹き込むのは、潮の香りを含んだ風。

太陽の日差しを受けた海がキラキラと光を乱反射する様子を見ただけで、夏の到来が待ち遠しくなってしまう。

「若葉。もうすぐ着くよ」

「本当ですか?」

どこまでも続く水平線から視線を逸らした私は、ハンドルを握る望月さんの横顔を見つめた。

「でも行列することで有名なお店だから、すぐには食べられないと思うけど」

「大丈夫です。望月さんと一緒なら、どんなに待たされても平気ですから」

「可愛いことを言ってくれるね」

車の中で、望月さんが『辛いもの好き?』と聞いてきたのは、理由があった。

「はい。到着」

車で約1時間半掛かって、望月さんが連れて来てくれたのは、海沿いのカレー屋さん。

駐車場に車を停めて助手席から外に出ると望月さんの言っていた通り、すでに店の前には行列ができていた。


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