ガラスの靴じゃないけれど


その列の最後尾に並ぶために、望月さんの隣を歩くと当たり前のように手を握られる。

「また手を繋いでくださいって、お願いされたからね」

からかうようにクスッと笑う望月さんは、やっぱり意地悪だ。

でも人目を気にしないで、堂々と手を繋げることはとても嬉しい。

繋いでいる手に力を込めると、望月さんはスクエアフレームの眼鏡の奥の瞳を細めながら笑顔を見せてくれた。

「それでさ。さっき車の中で聞きそびれちゃったけれど、若葉って辛いもの好き?」

望月さんには悪いけれど......好きかと聞かれれば、YESとは答えられない。

さりげなく望月さんから視線を逸らすと、大きなため息が聞こえた。

「ごめん。若葉」

「ち、違うんです!私、カレーは嫌いじゃないです。ただ、甘口しか食べられませんけど...」

「......」

私の答えを聞いた望月さんは、申し訳なさそうにしながら黙り込んでしまった。

初めてのデートで、いきなりの食の不一致。

これはピンチだと焦った私は、望月さんのテンションを盛り上げるために必死になった。


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