ガラスの靴じゃないけれど


「望月さん。うちの門限は10時です」

「え?門限?」

私の言葉を確認するように、望月さんは慌てながら腕時計に視線を向けた。

今はまだ太陽が沈んだばかりだけれど、渋滞していたら門限に間に合わなくなってしまうかもしれない。

この後も、ずっとここに居たいと思ってくれた望月さんには悪いけれど、そろそろ帰らなければならない時間だ。

「じゅ、10時って...今どきの高校生よりも厳しくないか?」

「え?そうなんですか?」

「...可愛い若葉に今まで彼氏がいなかった理由が、なんとなくわかった気がする」

望月さんはため息交じりに頷きながら納得していたけれど、私には何が何だか、ちっともわからない。

「どういう意味ですか?」

「ん?何でもない。それより若葉。最後にもう一度キスさせて」

ストレートなお願いを口にした望月さんは、私が返事をするよりも早く、唇を荒く塞ぐ。

徐々に熱を帯び始めるキスは、今まで交わしたどのキスよりも長くて深かった。


< 86 / 260 >

この作品をシェア

pagetop