ガラスの靴じゃないけれど


「俺が早々と若葉を口説いたのは、他の男に盗られないためだから」

望月さんがグループ会社の役員の娘である私を選んだのは、出世のため。

密かにそう思っていた私は、自分の稚拙な考えを恥ずかしく思った。

私に対する望月さんの想いは、純粋そのもの。

そのことを何より嬉しく感じた私は、数センチの距離を自ら縮めた。

瞳を閉じて、望月さんの唇に自分の唇を重ねる。

時間にしたら、たった数秒のキスだったはず。

唇が離れて瞳を開ければ、口元を上げている望月さんの顔が目に飛び込んだ。

「まさか若葉からキスされるとはね」

望月さんの意地悪な言葉は、私の頬をさらに火照らせる。

「...私もまさか自分からキスするとは思ってもいませんでした」

自分の今の気持ちを正直に打ち明けると、望月さんの笑い声が車内に響き渡った。

「若葉のそういう素直なところが好きだよ」

「私も望月さんのことがす...ぅん」

『好きです』と、最後まで言うことができなかったのは、望月さんに唇を塞がれてしまったから。

門限なんか無くなってしまえばいいのに......。

望月さんとの情熱的なキスに酔い痴れた私は、心の中でそう思うのだった。


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