ガラスの靴じゃないけれど
「それは?」
「木型だ。さっき縫製した革生地をこの木型に合わせて立体的にしていく」
彼はそう言うと、木型に革生地を被せた。
平面だった革生地が一気に立体的になり、思わず興奮してしまう。
「これって、もちろんパンプスが出来上がるんですよね?」
「ああ」
立体的になったとはいえ、まだまだパンプスの形には程遠い。
それなのに、その状態で紳士用の靴ではなく、パンプスが出来上がるとわかったのは理由がある。
木型のサイズが細見で、縫製した革生地の色が真っ赤だったからだ。
彼は革生地を被せた木型をひっくり返すと、ペンチとハンマーが一体化した器具を手にした。
「これはラスティングペンチだ。通称はワニ」
確かに、ラスティングペンチを横にすると、ペンチのギザギザした部分がワニの口で、取手の部分が体のように見えなくもない。
「このペンチの部分で革を引っ張って、ペンチの背の部分で木型の底面に仮止めの釘を打つ」
ついさっきまでは彼の邪魔をしないようにと、遠慮気味に斜め後ろから作業の様子を見つめていた。