ガラスの靴じゃないけれど
「後は底とヒールを取り付ければ完成ですか?」
木型に沿ったパンプスの本体が見事に出来上がり、私はひとりテンションが上がっていた。
「簡単に言えばそうだが、そう簡単に完成はしない。靴底にしても中底と本底があるし、その間にスポンジを入れたり、中敷きの革を貼り付けたりな」
「まだそんなに作業があるんですか?気が遠くなりそう」
「そうか?まあ、俺は好きでやっていることだから何とも思わないけどな」
きっぱりとそう言い切った彼の表情は、自信に満ち溢れて輝いていた。
私だって縁故採用ではあるけれど、前向きに仕事をしてきた。
でも彼のように、何の迷いもなく仕事が好きだと言い切れる自信はない。
何となく虚しさを感じた私は、自分が作業したわけではないくせに「ふぅ」と息を吐き出した。
「退屈だったか?」
「いいえ」
彼の手元から視線を上げてみれば、その近すぎる距離に驚く。
今までは食い入るように作業を見つめていたから気付かなかったけれど、彼と私の距離はわずか数センチ。
私は足を一歩後退させると、彼を意識してまったことを誤魔化すように口を開いた。
「毎日のように履いているパンプスが出来上がっていく過程が見られて楽しかったです」
「変わった奴だな」
私のことを鼻先で笑いながらも、彼はどことなく嬉しそうな表情を浮かべた。