ガラスの靴じゃないけれど


靴作りの緊張感が和らいだ今、私の心に芽生えたのは多くの疑問。

「オーダーできる靴ってパンプスだけじゃないんですよね?」

「ああ。ミュールにブーツ。紳士物の革靴からローファーまで、俺が作れる範囲ならどんなオーダーでも受け付ける」

彼の説明を聞きながらフムフムと頷いた私の頭に浮かんだのは、ある一足の靴。

「じゃあ、ウエディングシューズも?」

今は六月。ジューンブライドを連想した私の言葉を聞いた彼は、目を見開くと驚きの表情を浮かべた。

「オマエ、結婚するのか?」

「いえ。そうじゃないですけど...オーダーメイドのウエディングドレスも素敵だけれど、世界でたった一足しかないオーダーメイドのウエディングシューズはもっと素敵だと思って」

初めはシンプルな白いパンプスしか思い浮かばなかった。

でも今、私の頭の中では様々なウエディングシューズがクルクルと踊り出す。

上品な光沢が美しいサテン地や、艶やかなエナメル素材のウエディングシューズも素敵かも。

それよりもキラキラと光るビジューを散りばめたり、バックリボンをあしらっても可愛い。

次から次に膨らんでいくウエディングシューズを思い浮かべている私を現実に引き戻したのは、残念な現実。


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