背中合わせの恋
「あいつのことで、最近何か気づいたことはないか?」
「…気づいたこと、ですか?」
「あぁ」
まっすぐに見抜くような視線を向けられて、今度は私が目を伏せる番だった。
「どうしてそんなことを…」
「いや、少し気になることがあってな…」
草履に視線を落としたまま、どうやって逃れようかと、ない頭で考える。
「健康診断が終わった後ぐらいからか?…総司のやつ、頻繁に松本先生に見てもらってるみたいなんだよ」
額に手を当てる土方さん。
「ただの思い過ごしならそれでいい。…でもな、あいつの咳を聞いていると、どうにも思い過ごしだとは思えねえんだ」
そう言って表情を歪める土方さんを見て、そういえば…と思い出した。
土方さんはご両親を労咳で亡くされたと聞いたことがある。
それだけでも辛いはずなのに、今度は弟のように可愛がっている沖田さんを労咳で亡くしてしまうかもしれない…。
それはきっと私なんかじゃ想像もできないほど辛いはずだ。
ここで私が正直に言えば、土方さんはすぐにでも沖田さんを隊務から外すだろう。
だけど…。
ジャリっと草履を踏み鳴らす。
「沖田、さんは…」
「…総司は、なんだ?」
下ろしていた視線をゆっくりと土方さんに合わせる。
まっすぐに向けられたままの土方さんの瞳からは、どれだけ沖田さんのことを心配しているのかが伝わってきた。
後ろ手に丸めた隊服が、何故かズシリと重く感じた。