背中合わせの恋
静かに息を吐く。
「沖田さんは、ただの風邪だそうですよ」
「…風邪?」
土方さんの眉間の皺が深くなった。
「風邪にしては随分と長引いてるじゃねえか」
「最近の風邪は長引くそうだ、と松本先生が仰っておりました」
「……」
「……」
疑るような視線から一切目を逸らさず、まっすぐに見つめ返す。
どれぐらいそうしていただろうか、先に視線を外したのは土方さんだった。
「……そうか」
「え、」
「総司本人も風邪だと言い張っていたからな。お前もそう言うなら、そうなんだろう」
何とも言えない表情で、土方さんは視線を逸らしたまま背を向けた。
「仕事の邪魔をして悪かった」
「あ、い、いえ」
その横顔に胸が締めつけられ、思わず顔を伏せる。
「……陸」
「はい」
顔を少しだけ上げる。
土方さんは背を向けたまま、顔だけこちらに向けて、何かを言いたそうに何度か口を開いた。
だけどすぐに複雑そうに笑む。
「…総司のこと、頼むな」
「っ、」
それだけ言うと、土方さんは今度こそ背を向けて歩いて行ってしまった。