背中合わせの恋



静かに息を吐く。


「沖田さんは、ただの風邪だそうですよ」

「…風邪?」


土方さんの眉間の皺が深くなった。

「風邪にしては随分と長引いてるじゃねえか」

「最近の風邪は長引くそうだ、と松本先生が仰っておりました」

「……」

「……」


疑るような視線から一切目を逸らさず、まっすぐに見つめ返す。


どれぐらいそうしていただろうか、先に視線を外したのは土方さんだった。


「……そうか」

「え、」

「総司本人も風邪だと言い張っていたからな。お前もそう言うなら、そうなんだろう」


何とも言えない表情で、土方さんは視線を逸らしたまま背を向けた。


「仕事の邪魔をして悪かった」

「あ、い、いえ」


その横顔に胸が締めつけられ、思わず顔を伏せる。


「……陸」

「はい」


顔を少しだけ上げる。


土方さんは背を向けたまま、顔だけこちらに向けて、何かを言いたそうに何度か口を開いた。


だけどすぐに複雑そうに笑む。


「…総司のこと、頼むな」

「っ、」


それだけ言うと、土方さんは今度こそ背を向けて歩いて行ってしまった。


< 13 / 20 >

この作品をシェア

pagetop