背中合わせの恋



長めの前髪が邪魔をして、沖田さんの表情が見えない。


「君は…、」


絞り出すようなその声は、少し震えているようにも聞こえる。


だけど顔を上げた沖田さんの顔にはいつもの笑みが浮かんでいた。


「君は意外と律儀なんだね、嫌いな人との約束を一々守るなんて」




「きらい…?」


大きく耳に響いたその言葉。


繰り返してみるけれど、目の前で笑う沖田さんから発せられたその言葉の意味が、上手く理解できない。


沖田さんを見上げる。


沖田さんは変わらず笑っていたけれど、あのときのように瞳だけはすがるように私を見ていた。






「だって、陸ちゃん僕のこと嫌いでしょう?」





「え……」


その瞬間、あんなにもギュッと握りしめていた沖田さんの隊服を、はらりと地面に落としてしまった。


沖田さんは落ちていく隊服を目で追いながら、ゆっくりと近づいてくる。


「はい、これ落としたよ」


落とした隊服を拾い上げた沖田さんは、やっぱり笑っていた。



どうして、貴方は笑っていられるんですか?




< 15 / 20 >

この作品をシェア

pagetop