愛だから愛なんて愛しか
帰り道
小百合は思ったほど緊張していなかった。

今日から自分の勤め先となる店の自動ドアの前に小百合は立っていた。
ウィー・・・
静かに自動ドアが開き、中で立っていた数名がドアの方に注目した。
思いの外、店内は静まり返っていて、小百合は動揺してしまった。

「あ・・・今日からお世話になります野尻桃花です。」
小百合は頭を下げながら、静かな店内に向かって言った。
頭を上げると、店長らしき、小太りだが身長が高い男性が足音を立てず近づいてきた。

「野尻さんですね?」
男は小声で言った。
「はい。」
小百合も合わせて小声になった。
「こちらへどうぞ」
男は、右手を後方に向け、奥の部屋へ私を促した。
小百合はもう一度軽く頭を下げ、男の後ろについて行った。
施術を行っている隣を音を立てずに歩いたので、小百合は息を止めてしまうほど注意して歩いた。

奥の部屋に辿り着いても店長らしき男性は声を大きくすることはなく、なるべく小さな声で話し出した。
「青山整体学院からのご紹介でしたよね?」
「そうです。」
小百合も合わせて小声を続けた。
「いつから働けますか?」
「すぐにでも!」
「では、まず研修として本店の自由が丘店に、うちの独特の施術法を学んでもらいます。基本は学校でやってきてると思うので・・・」
「研修ですか・・?あの・・その間やっぱりお給料はでないんでしょうか?」
面接初日からお金の話はできればしたくないが、大事なことだ。小百合にも生活がある。勇気を出して聞くしかなかった。
「大丈夫ですよ。その間も給料は発生します。ただ・・・正社員とは違って、時給計算になりますが。」
「どのくらいですか?」
「時給900円で、1日8時間は研修時間があります。」
それならば、多少の生活費は賄えそうだ。小百合はほっとした。

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