【完】『道頓堀ディテクティブ』
東京行きを明日に控えた日。

阿波座の鈴井あゆなの事務所に穆から、

「お約束のお預かりしていた品物をお送りします」

というメッセージのついた封書が届いた。

開けると。

手紙があった。

「…」

無言で読んでゆく。

「…どうしてまりあが」

そこには、まりあの字で探偵に依頼した話から京都を探し回った話から、さらには専門学校をやめて大阪まで来た話までつづってあり、

「この手紙も久保谷さんに無理を言って託した」

と記されてあった。

末尾には、

「依頼費を払うために探偵さんの事務所で働くことになったので、しばらく大阪にいます」

と結ばれてある。

しかし。

鈴井あゆなこと有馬ゆりあは、もうじき東京へ下ってゆく身なのである。

スケジュールは、ずらしようがない。

明日発つのである。

無理を承知で、穆の携帯電話に電話をしてみた。

(つながらなかったら)

諦めるつもりで、コールを待った。

「はい、久保谷です」

「…久保谷さん」

すぐにでも泣きそうな声を出した。

「まりあは、まりあは…」

咄嗟に単語が動揺で出てこない。

「…まりあさんには新大阪の駅に向かうよう、伝えておきます」

安堵したように電話を切ってから、ハタともしかして探偵は穆のことではないだろうかと気づいた。

が。

今や確かめようもない。

もう少しで、夜が明けてしまう。

ソファに座った。

(まさかまりあが大阪にいるなんて)

そのまま疲れたのか、しばらく眠ってしまったのであった。
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