【完】『道頓堀ディテクティブ』
ひとまず向かったのは、箕面のシマシンのマンションである。
車も借りた。
脇に「マーケティング調査中」と書かれたマグネットまで貼ってカムフラージュしてある。
とは言うものの。
「…しかし自分の女房の浮気調査を依頼してくるって、えらい嫉妬深い亭主でんなぁ」
大二郎は言う。
「あのなぁ大の字」
世の中探ってみな分からんもんかてあんのや、と穆は答えた。
「そらクボやんは探偵はじめて十年ぐらいですから、そう思うんでしょうけどねぇ…」
そのとき。
「…何か来たで」
マンションの車寄せに一台の白ベンツが横付けしてきた。
それに、出てきた女が乗る。
「…あれや」
写真で確認した、紳一郎の妻の由美子である。
「ついてくで」
少し間を取って後をつけて行く。
箕面の住宅街から府道へ抜け、徐々に拓けてゆくのが分かる。
「…どこ行くねんな」
だんだん大阪の市街が近くなる。
新幹線の高架が見えてきた。
「あと少しで新大阪やで、これ」
新幹線に乗られては、打つ手が限られてしまう。
が。
白ベンツは新大阪の駅前の、小綺麗なホテルの車寄せに吸い込まれて行った。
「…高級ホテルやん」
「これであとはどうなるかやな」
穆と大二郎は向かいのビジネスホテルに入り、見通しの良い部屋を頼んで見張ることになった。
「これで夜中か朝に出てきたら浮気や」
一応、白ベンツの写真は撮影してある。
「ナンバー検索出ました」
白ベンツの持ち主は御堂筋のIT会社の社長らしい。
「…これ、クロやろ」
IT会社の社長と芸能人がこういう場合に出てくると、大抵が浮気であることは穆は経験から判断できる。
「…確かこの奥さん娘おるやろ」
「データやと池田の私立の幼稚園に通ってます」
大二郎が深い溜め息を漏らした。
「…このままゆけば離婚やろな」
穆が呟く。
「元日本代表でも浮気されよるんですね」
「なんぼなんでも、人間は残酷な生き物やからな…こればっかりはどうしょうもあれへん」
どこか穆には浮き世離れした面があるらしい。