【完】『道頓堀ディテクティブ』
日が、暮れた。
「…なかなか出てきませんね」
「当たり前や、何回かセックスしよったら時間どんだけ食うか分かるやろ」
「いや、彼女おらんので…」
穆が面喰らった。
「おまえ、まさかのチェリーか」
とたんに穆は笑い出した。
「そら、わからんのもしゃぁない」
話はそこで終わり、という空気になった。
双眼鏡を手に眺めていた大二郎が、
「あ、出てきた」
「じゃあ車で追うから、後始末頼むで」
穆が階段で駆け下りて行くと、手際よく駐車場から車を出した。
白ベンツには由美子らしき姿もある。
離れながらついてゆくと、白ベンツは十三のコンビニに停まった。
穆は車を隣の公園に停め、タブレットをいじるふりをしながら様子をチラチラ見た。
すると。
ATMでなにやら男が金を引き出して由美子らしき女に渡しているのが見えた。
「…これ、完璧に援助やんか」
バックミラーで窺いながら再びつけて行くと、箕面のマンションで彼女を降ろし白ベンツは去って行く。
「…裏とるか」
間違いがなければ西宮の自宅に向かうはずである。
が。
白ベンツは再び大阪市内の方に走ってゆくのである。
「…まさか、白ベンツに感付かれたか?」
鼓動が耳まで伝わってくる。
が。
気づかれる様子もなく高速道路に乗った。
住所でいえば武庫川で降りるはずである。
そこで。
穆は尼ヶ崎西で降りる策に出た。
鳴尾浜を目指すように見せたのである。
男のマンションは、武庫川の河口に近い。
電車とタクシーで移動した大二郎を武庫川団地の駅で拾うと、武庫川口のそばのマンションと通りを挟んで反対側の公園に停め、ドアのマグネットを外した。
そこへ。
マンションの駐車場へと白ベンツが入った。
「…これであとは報告だけやな」
再び運転して今度は西宮のインターから名神高速を使って豊中まで出て、わざと遠回りをして帰ってきた。