【完】『道頓堀ディテクティブ』
3 宗右衛門町の女
久々に訪ねてきた顔がある。
「よ」
ときおり情報のやり取りや何やらで世話になることもある、新大阪日報社の寺内健吉であった。
「相変わらずだな」
どうよ探偵稼業は、と寺内はざっくばらんな訊き方をしてくる。
そんなときには。
「えぇまぁボチボチやってまっせ」
とだけ穆も答える。
まだ探偵になりたての頃からの付き合いであるから、既に十年ばかりは経つのか分からない。
寺内が急に訪ねてきたのは、
──引き合わせたい女がいる。
との由で、何でもその女は宗右衛門町にいる…というのである。
「依頼人でっか?」
大二郎が訊いた。
「彼女は何にも頼んでない」
「そんなん、話になりしまへんって」
まぁそう言うなって──寺内は出されたおにぎり煎餅をバリバリいわせ頬張った。
「その女がな、またいい女なんだが」
何か頼むときには久保谷さんがいい…って言い出してるから、話の種になったらしいのである。
「うーん」
宗右衛門町なんてなかなか行かないですけどね、と穆の表情は怪訝なままで、
「まぁちょっと偵察ぐらいはしやなアカンかも知れまへんな」
にべもない言い方をした。