【完】『道頓堀ディテクティブ』
「でもいったいなぜ、ここが…?」
「常連のお客さんに、あなたを知っているという方があって」
それで訪ねたらしい。
「依頼は理解できました。しかしうちは見ての通りの探偵屋で」
人材を派遣する訳ではない。
「それが人材バンクに頼めないということは…よほどの事情がある、と見ました」
むろん無理にお話しなさらなくても問題はありませんが、と穆は付け加えた。
すると。
「…実は前から気味の悪いお客さんがあって」
要は別の男を見せつければ諦めるであろう…といったことらしいのである。
「…なるほど」
承りました、と穆は答えた。
まりあは、
(そんな身勝手な)
と感じたようだが、そこはまりあには分からない機微というものがあるらしい。
「ちょっと呼び出してみます」
そういうと穆は受話器を取り、大二郎につないだ。
「お前、今時間取れるか?」
「30分ぐらいなら」
「ならちょっと来いや。お前に美女からご指名やで」
言うが早いかガチャッ、と切れた。
「…なんちゅうゲンキンなやっちゃ」
穆は苦笑いしたが、
「…そういう素直な殿方は嫌いではないですよ」
背筋が凍り付くような微笑で静は言ったので、
(ホンマ女っちゅう生き物は、恐ろしいもんや)
穆は血の気が引いて行くのを、如何ともなしがたかった。