【完】『道頓堀ディテクティブ』
老紳士は黙っていた。

静も、そこは客商売であるからつれなく「出て行け」などとは言わず、

「いつものです」

とだけ言って、キューバリブレを出す。

余談だが。

キューバリブレとはメキシコークともいい、ラム酒をライムとコーラで割ったカクテルである。

それを。

チビチビと老紳士が楽しみ、飲み終えると勘定を払って立ち去る。

「…いつもこんな感じなの」

名前も知らないし、ちょっと薄気味悪くて…静は言った。

が。

大二郎にはどこがストーキングなのか分かりかねたらしく、

「どうなんでしょうね」

と翌日になって穆に訊いてみた。

しばらく考えてみたが、

「俺には分からん」

首を振った。

そこへ。

「…あのー」

まりあがコーヒーを淹れてきた。

「あくまで私の意見なんですけど」

お互いに意識はしてるけど踏み込めないから、そうなってるのかなって──まりあは言った。

「子供は黙っとき」

大二郎がきつく言うとまりあは泣きそうな顔をした。

「…いや、まりあちゃんの考えは意外に、当たってるかも知れへんで」

穆は何か閃いたような顔で、

「ちょっと荒業やが試してみるか」

そういうと穆は、本棚を漁り始めたのであった。



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