【完】『道頓堀ディテクティブ』
数日後。

穆は「BAR靜」に通うようになった。

例の老紳士と同じように、穆はキューバリブレを飲んで帰る。

それを繰り返してみた。

作戦である。

そのうち静も、

「あ、いつものですね」

と作戦に乗るように、キューバリブレを出すようになった。

常連のソープ嬢なんぞはそうした穆に興味を示したらしく、

「いつもキューバリブレじゃ、厭きて来ぃひん?」

と言うのだが、

「俺はこの店のこれが好きやから」

とだけ言った。

その時。

言いながら気づいたのは、

(もしかして)

単にこのカクテルが好きで飲んでるだけなのでは、という疑問であった。

しかし。

(それだけなら、不規則には来んはずや)

人間の飲酒の習性は法則性がある、というのが心理学の資料にあるのを穆は覚えていた。

それだけに。

間が空く説明がつかないのである。

「うーん」

真意をはかりかねた。

そこに。

「いらっしゃいませ」

見た。

静は沈着を装ったが、胸のうちは動揺している。

例の老紳士が来た。

いうまでもないが穆がキューバリブレを飲んでるのは知らない。

何食わぬ顔で端の椅子へ。

「…いつものです」

老紳士の前にキューバリブレが出された。

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