【完】『道頓堀ディテクティブ』
4 画家の娘
老紳士と秋月静の件が片付いた頃、珍しく一瀬はるかが穆の事務所を訪ねてきた。
「ここには冷房ついてないんですね」
化粧崩れを気にしながら、むっちりとした容姿のはるかは汗を拭いた。
事務所には東寺の弘法市で値切って買った、古い扇風機が首を振っているだけである。
まりあが麦茶を出した。
「ありがとうございます」
「で、用向きは?」
「今度、当社主催で画家の個展を開催することになりまして」
そう言うと、一冊のパンフレットを鞄から出した。
「東郷忠、ですか」
穆も名前だけは聞いたことがある。
間違いがなければ、画壇の大御所として関西では知られた存在の人物で、
「会場は梅田の阪急百貨店ですかぁ」
「当社で美術展を開催するときには、阪急百貨店さんにお世話にいつもなってまして」
「で、どうしろと?」
「事件がなければ、お越しになってみてはどうかと」
「なるほど」
穆は笑い出した。
「寺内さんらしいな」
あの人は俺が美術観賞が数少ない趣味なのを知ってるからなぁ──穆は笑いながら言った。
「こちらがチケットです」
「分かりました、期間中に何事もなければ行きます」
なぜか二枚渡された。
(そういえば)
寺内健吉はまりあの存在を知らないはずである。
前に事務所に来た折も、まりあは何かの用事で席をはずしており、
(紹介した記憶はない)
多分、大二郎と二人ぶんという意味なのであろう…と穆は勝手な想像をめぐらせていた。
「ここには冷房ついてないんですね」
化粧崩れを気にしながら、むっちりとした容姿のはるかは汗を拭いた。
事務所には東寺の弘法市で値切って買った、古い扇風機が首を振っているだけである。
まりあが麦茶を出した。
「ありがとうございます」
「で、用向きは?」
「今度、当社主催で画家の個展を開催することになりまして」
そう言うと、一冊のパンフレットを鞄から出した。
「東郷忠、ですか」
穆も名前だけは聞いたことがある。
間違いがなければ、画壇の大御所として関西では知られた存在の人物で、
「会場は梅田の阪急百貨店ですかぁ」
「当社で美術展を開催するときには、阪急百貨店さんにお世話にいつもなってまして」
「で、どうしろと?」
「事件がなければ、お越しになってみてはどうかと」
「なるほど」
穆は笑い出した。
「寺内さんらしいな」
あの人は俺が美術観賞が数少ない趣味なのを知ってるからなぁ──穆は笑いながら言った。
「こちらがチケットです」
「分かりました、期間中に何事もなければ行きます」
なぜか二枚渡された。
(そういえば)
寺内健吉はまりあの存在を知らないはずである。
前に事務所に来た折も、まりあは何かの用事で席をはずしており、
(紹介した記憶はない)
多分、大二郎と二人ぶんという意味なのであろう…と穆は勝手な想像をめぐらせていた。