【完】『道頓堀ディテクティブ』
「そうか、君は探偵やったんやな」

そらシュッとしとるはずや──東郷忠にすれば人生で初めて目にする職種である。

「どんなイメージなんですか」

「そら探偵といやぁシュッとしとるに決まっとる。チビでデブでハゲ散らかしたのが探偵やったら画にならんやろ」

言い方が思わず滑稽で穆は噴き出してしまった。

「…せや」

今度依頼したるから──後ろで呼ぶ声があるのを待たせて言い、東郷忠は再び、人混みに消えた。

「シュッとしたのが探偵、か…」

まりあは何かおかしかったのか、クスクス笑い出した。

「あの東郷先生って人、何だか面白いですね」

「けったいっちゃあ、けったいやな」

穆とまりあは順路の矢印がある廻廊の方へと歩を進めて行くのであった。



数日後。

東郷忠は麻の着流しに絽の羽織、手にはクラッチバックといった身なりでやって来た。

クラッチバックから出したのは、封筒である。

中身は一通の書類で、

「生き別れた娘を捜したい」

との由である。

セーラー服姿の少女が撮影された一枚の写真が添えられてあり、

「瑠璃子、18歳の時」

とある。

「卒業のときにこれが届いたんやが、消印が神奈川という以外は分からん」

この数少ない手がかりからどうすれば良いか、穆にもはかりかねたらしい。

そこで。

一度、東郷忠の経歴を調べてみる必要があると判断した穆は、東郷が帰ってのちプロフィールを洗い出してみることにした。


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